キングス・クロス駅9番線と10番線の間。
「じゃあ、行ってくるわね。パパ、ママ。」
柔らかくウェーブした栗色の髪に意思の強そうな瞳を持った少女がたくさんの荷物が乗ったワゴンの横で両親に別れの挨拶をしていた。
「ああ・・心配だわ。忘れ物はない?」
「大丈夫よ。ママったら心配性ね。」
「心配もするさ。パパ達は一回も行ったことがない場所なんだからな。」
両親はあわただしく少女の荷物を何度も確認していた。
そんな両親を見ながら少女はひそかにため息をついた。
両親はホグワーツからの入学許可書が届いてからずっとこうだ。
教科書は全部そろっているか・・・足りないものはないか・・・他に必要なものは・・・
何度も何度も少女の荷物をほどいては確認し、またくぐってはほどいてを繰り返していたのだ。
はじめこそ、同じように心配したり不安におもったりしていた少女だが、両親のあまりの心配ぶりにすっかりその不安も影を潜めてしまったのだった。
もう何度目になるか分からない両親の荷物チェックが終わり、少女はもう一度両親が荷物チェックをはじめるまえに両親に声をかけた。
「パパ、ママ。私、もう行くわ。乗り遅れたら大変ですもの。」
「そうね。たしかにそれは大変だわ。」
「それに、足りない物があれば、また送ってくれればいいことだもの。そうでしょう?」
「そうだね・・。うん。」
両親は少女に向き直り、まず母親が少女を抱きしめた。
「いってらっしゃい。しっかりやるのよ。身体には十分気をつけて。」
「ええ。ママ。いってきます。」
そして、今度は父親が少女を抱きしめた。
「クリスマス休暇には必ず帰っておいで。」
「ええ。かならず帰ってくるわ。」
少女はそういって、両親と分かれ、9と4分の3番線の前までいった。
軽く深呼吸をして前に進もうとした所で、同じように前に進もうとした少年とぶつかりそうになった。
「きゃ!」
少女は小さく悲鳴を上げた。
「ごめん。ちょっと緊張してて前を見ていなかったんだ。」
少女はそう言った少年を見た。
黒いくせ毛の髪に丸いメガネをかけた細身の少年だ。
かなりかっこいい。
「え・・・ええ。こちらこそごめんなさい。お先にどうぞ。」
少女は少年に先に行くよう促した。
「いいの?」
「ええ。」
少年は少女にお礼を言っってからにっこりと微笑んだ。
「僕はハリー・ポッター。今年ホグワーツ入学なんだ。また会えるといいね。」
そういって少年は少し小走り気味に壁を通り抜けて行った。
「ハリー・・・ポッター・・・・。」
少女は先ほどの少年の名前をつぶやいってから少年が通り抜けて行った壁を見つめた。
「・・・・。」
胸にわきあがったこの思いに名をつけるにはまだ早い気がした。
少女は少年が通りすぎた壁に向かってつぶやいた。
「私はハーマイオニー・グレンジャー。私たち、きっとまた会えるわ。」
少女は確信めいた声でそうつぶやいた。
そして少年が通った壁に向かって走って行った。
二人が再び出会う時はもうすぐそこまでせまっている。
終わり
☆ご感想は
GUEST BOOK又は
掲示板へどうぞv