『METAMORPHOSIS 女の子になっちゃった話 完結編』












「殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる〜〜!!!」

「なに物騒なこと言ってんのよ、アンタは」


談話室から出てくるや否や殺人予告を連発する紅髪の女を私は捕まえた。
綺麗な顔は泣き腫らし、涙をからませたような籠もった声をあげる女―――

ロナルド・ウィーズリー(♀)だ。


「ラ、ラベンダー!?」

「しっ、大きな声出さないでよ、ばれるじゃないの。ハーマイオニーはともかく、ハリーはこういうのにとても勘が鋭いのよ」


「だったら、放してよ。ラベンダーも殺すよ?」


涙を流して真っ赤になっている目で凄まれる。

てゆーか、コイツ、本当に危ない人なんじゃないだろうか。


「いつまでもなにあほな事を言ってんのよ、アンタは。アンタが望んだ通りになってんじゃないのよ!」

「どこが望んだ通りなのよ!ハリーは何をトチ狂ったかハーマイオニーが好きだなんて言い始めちゃって……、本気みたいだし……」

「それで良いじゃないの」

「どこがよ!?ふざけるんじゃ……ウグ…ウグ…」


うるさい赤毛の口を押さえ、談話室の中の様子を窺う。
ドアに耳を当てる。
ミス・プリッシーことハーマイオニーの声が聞こえてきた。
「もしかして身体が目当てかしら?」
……。
…………。
……………………。
なんかとんでもない台詞なんですけど。
だいじょうぶかしら?
「……心も身体も、君の全てが目当てですよ、僕のお姫様」
ブッ!
なんだよその台詞は!
くさすぎる!くさすぎるぞ、ハリー・ポッター!!

……でもまあ、良かった。一応、うまく行ったみたいだ。
良かったね、ハーマイオニー。幸せになってね。


「うー、うー、うー(放せよ、てめえ、死なすぞ)」


そんでもって、問題はこの馬鹿だ。
暴れてんじゃねえよ。


「良かった、上手くいきそうだよ、あの二人。ハリーもハーマイオニーも大丈夫」

「うぐうぎー(ふざけんなー)」


一層激しく、身をよじるロン。押さえるのも一苦労だ。
ちっ、これ以上はちょっと無理だな。

私は口を押さえていた手をはずした。


「良かったじゃない。身を張った意味があったね、名演技だったよ、ロン」

「はあ?」

「あの二人に発破をかける為に女の子になった意味があったねって言ったんだよ」

「へ?」


まさか、コイツ、本当に覚えてないのか?


「本当に忘れちまったみたいね、アンタは。自己暗示の呪文を強くかけすぎたんじゃないの?」

「自己暗示?」


駄目だコイツ、馬鹿決定だ。


「はあ、ロン。アンタはねえ、ハリーを異性として意識するように自己暗示の呪文をかけたんだよ。綺麗な女の子になってハリーに迫れば、いくらのんびり屋のハーマイオニーでも焦って告白するだろう、ハリーはもともとハーマイオニーに惚れてるから後は彼の優柔不断さをどうにかすればいい、そう言ったのはアンタでしょうが」

「そ、そんな馬鹿な……」


顔面を蒼白にしているロン。本当になんなのコイツ?


「私ゃね、アンタがこの話を持ちかけてきた時には思わずアンタを見直したよ。そこまで友達想いになれるアンタが羨ましいとも思ったぐらいなんだけど」

「じゃ、じゃあ、この気持ちは……。ハリーへのこの気持ちは……」

「そんなの偽物に決まってるじゃん」

「そんな……」

「それにしてもアンタなんで記憶を失ってるの?自己暗示に失敗したの?」

「そういえば、ダンブルドアが……。魔法の研鑽が足りないとかなんとか……」

「……」

「でも、この気持ちが嘘だなんて……。私は心からハリーが好きなのに」


まだ言ってるし。どうしようもないね。
そうか、自己暗示に失敗したのか。

だから、こんな火サスの女みたいな意味不明なこと言ってんのか……。

面白い!
面白すぎるよ、ミスター・ウィーズリー!!


「じゃあ、本当に惚れちまったんじゃないの?ハリーはかっこいいもんね。ライバルがあの娘じゃなければ、私も参戦しても良かっ――」

「――死にたいの、ラベンダー?」


ハリーを誉めた途端に、目が血走っているロンに杖を突き付けられている私。
やばいよ、コイツ。

この殺気、マジだ。


「嘘でーす。冗談でーす」


思わず必死で命乞いしてしまった。


「私はまだ諦めないわよ。絶対ハリーは諦めないわ」


私を睨みつけ、杖を突きつけながら呪詛をつぶやいている。

やばい、コイツ、絶対に危ない人だよ。


「まずはハーマイオニーからハリーを奪還して、それから、それからね……、えへへへ、ぐふふふ」


妄想の世界に旅立っていったロン。目が逝っている。
コイツ、さっきまで大泣きしてなかったか?

私は大きく溜息をついた。


「……すまんね、ロン」

「はい?」

「朝まで寝てな!」



バコッ!!!



私は杖で思いっきりこの赤毛の女の頭をぶん殴った。

ドサッ。
声もなく倒れるロン。

ロンの目尻から流れている涙に、胸キュンである。

……私もたいがい馬鹿だな。




とりあえず今の騒ぎが中にばれていないかを確認する為に、私はドアに耳を押しつけた。

「ハリー……」
「ハーマイオニー……」
ソファが軋む音。


……うまくやっているみたいだね。

でもね、そんな所でそういう行為は良くないと思うの、私。
とりあえず、金輪際、談話室のソファは使わないようにしよう。



「で、この馬鹿野郎はどうすっかねえ」


白目を剥いて気絶しているロン。
せっかくの美人が台無しだ。


「とりあえず男に戻すか……。ちっ、面倒かけやがって」


私は呪文を紡いだ。

なにしろ、ロンに女の子になる魔法を教えたのは私だ。
昔、パパの書斎に忍び込んだ時に何気なく開いた闇魔術の本に書いてあったものだから、ハーマイオニーが知らないのも無理はない。
さすがに先生方は知っていたみたいだが、性別の転換なんてはっきり言って無害だから、お目こぼしになったのだろう。


「……ッ。男になれ!」


ボン!
言い終わると同時にロンの身体は白煙に包まれ……。

煙が晴れるとそこには男に戻ったロンがいた。
身体のサイズも元に戻ったので服がかなりきつそうだ。


「てゆーか、この姿はまるで変態だな。スカートも全然似合ってないし。相当危ない人に見えるよ」

「……」


気絶しているロン。
もちろん、何も言わない。

ちっ、仕方ないな。私の部屋に運ぶか。
さすがにこの姿でここに放置していく訳にもいかないからな。


「やれやれ、ロコモーター……」


ロンの身体を浮かせる。
意識のないロンの顔を見て、私はニヤリと笑った。

……そうよ、私はあくまで親切で運んであげるんだからね。ちゃんとお礼も頂かないと。














「ぎゃあああああ!!!」


ロンの叫び声で目を覚ました。


「何よ、うるさいわね」


朝から顔面を蒼白にしたロナルド・ウィーズリー(♂)が目の前でアホ面を晒している。


「ら、ラベンダー。は、裸……」

「アンタも裸でしょうが」


何言ってんのよ、コイツ。当たり前でしょうが。


「僕、男に戻ってるし……、しかもなんで裸で君と……」


混乱している様子のロン。まあ、当たり前といえば、当たり前か。


「そんなもん、やる事やったからに決まってるでしょうが」

「えええ!??」

「シクシク、覚えてないなんてひどいよ。あんなに愛し合ったのに」


私は咄嗟に泣き真似をした。

どうせコイツには見破れまい。


「そんな……、馬鹿な……」


この世の終わりみたいな顔をしているロン。

うん、そんな顔もいいわ。そういう絶望した顔もね。
好きだわ。


「ねえ、本当に?嘘でしょう?」


うん、嘘じゃないよ。

いやあ、昨日のハリーとハーマイオニーのを聞いてたら興奮しちゃってさ、ごめん、食べちゃったのよ。思わずね。

アンタ、初めてみたいだったけど、まあ許してよ。


「嘘じゃないよ。アンタは覚えてないみたいだけど」


「いつ男に戻ったのかすらおぼえてないよ!!」


ヤケクソのように叫ぶロンに、私はニッコリと微笑んでいった。




「責任とってね」



「……はい」


どちらかといえば責任を取らねばならないのは私の方なのだが、まあいいや。この方が何かと都合が良いし。

何故か泣いているロンを尻目に私は着替えを始めた。


そうして、あらかた着替え終えたその時!




「キャアアアア!!!」




談話室の方から耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。


「何?なんなの今のは!」


ロンの慌てふためいた声に私は落ち着いて答えた。


「ハリーとハーマイオニーが見つかったんでしょ、どうせ。あのままソファで寝ちゃったんでしょうね、たぶん裸で。今から、あの二人を助けてくるから。アンタはここにいなさい」


着替え終えて、部屋から出る時、ふとロンの服がないことに気付いた。


「仕方ない、ハリーに事情を説明しなきゃね。服を取ってきてもらわなくちゃ」


そうしたら、私とロンの関係も知られちゃうわね。

ああ、残念だわ。




嬉しさを堪え切れずに私はクククッと笑いを零したのだった。


(おわり)









作者コメント

これはかなり難産でした。本当は中編の後からロンが女の子のまま話をずっと続けた かったんですが、最初に前編と銘打ってしまったからには前中後編で終わらなければ なりません。で、結局、後編は物語の終息に向けて急ピッチに展開しそのくせ終わら ず完結編にまで長引くという始末。まあ、ラベンダー姐さんは書いてて楽しかったけ どね。 できればいつか続きを書きたいと思っています(またロン君にはおなごになって頂い て)。
 by レイン坊