乙女心は知らないね








ハーマイオニー・グレンジャーは、彼女にしては非常に珍しい事態に陥っていた。

普段は誰よりも集中して望むマグゴナガルの授業もそっちのけにして
斜め前方に座っている真っ黒な髪の少年の方ばかり見ていたのだ。

そして今日、何度目かになるのかもわからないため息を密かにつく、

「どうしたの?」

突然声を掛けられた。
振り向いて横をむくとロンが心配そうな眼をしていた。

「・・・いいえ何でもないわ。ロン。」
「・・・そう、でも君そうとう顔色悪いぜ。」

ハーマイオニーは軽く微笑んだ。
単純にロンの気遣いが嬉しかったのだ。

「ええ、でもほんとに大丈夫よ、熱もないし。」

自分の頬を手のひらで触って言う。

「ならいいけどさ、無理をしないで言ってよ。その――――」

ロンは其処まで言うと急に顔を赤らめて

「―――――こ、恋人だろ。」

「・・・・うん、そうね。」

ハーマイオニーも自分の顔が熱を持つのを自覚した。
 
そう、ロンは恋人なのだ。

―――――自分の一番大切の人。

彼と相思相愛と知ったときは本当に嬉しかった。
他のことなどすべてがどうでも良い事に思えるほどに・・・・・

――――だけど

ハーマイオニーは再び黒い頭に眼を向けた。
 
ハリーとは、遠くなってしまった。
彼は自分達が付き合うことを報告すると笑って

「オメデトウ、素晴らしいことだよ。親友同士が付き合うことなんて、じゃあ僕は消えるよ。
新婚夫婦に邪魔者はいらないからね。」

と言って去っていった。
 
もちろん。ハーマイオニーはハリーのことを邪魔者などとおもったことはない。
いままで通り親友でいるつもりであった。

しかし、そうはならなかった。
彼は自分と二人きりになることを極力さけるのだ。
ロンがいないときにハリーの傍にいくと、

「ロンが待っているよ。」

である。
そのためにハリーが何を考えていて何をしているかも、まったくわからない・・・・
 
ロンにハリーのことをきいても、なにも変わっていないと言うし
避けているんじゃなくて僕たちに気を遣っているのだと言う。
確かにそうかも知れない。

―――――――だけど気になった。彼は無茶をするのだ・・・・・・・

いつもそうであった。人が出来ない事を乗り超えていくのだ。
‘あのハリー・ポッター‘と見ている生徒は彼が特別だと思っているだろう。

だけど自分は知っている筈だ。

――――――― 彼がどんなに頑張ったか。
――――――― 彼がどんなに苦しんだか。
――――――― 彼がどんなに悩んだか。

・・・・・そして

――――――― 彼がどんなに素敵かを。

「!!」

ハーマイオニーは体が急に熱くなるのを感じた。
先程のロンの時とは比較にならないほどの熱さだ。


――――――自分は今、何を考えた。
飛んだ方向に思考が行ってしまった。
 
ハーマイオニーは頭を大袈裟に振るとハリーから慌てて
視線をはずし、顔を抑えておそらく真っ赤になっている
顔を誰にも見られないように隠した。


5分ほど時を落ち着くと火照りがとれた。

―――――ようするに、そう、ようするにだ。
彼は、特別では無いのだ!他の誰も知らないこと、
あのダンブルドア校長でさえも彼を特別視しているが、
彼も一人の人間なのだ。


ハーマイオニーは、ハリーを再び視界にいれた。
今度は、盗み見るような視線ではない。理解を伴った瞳で、
 
そして自分が彼の役に立てていたことも理解していた。
彼が今まで生き残ってそして勝ち抜けて来たのは、
間違いなく自分の助けのおかげもあるはずだ。
これを思うと自然と誇りが沸いてくる、そしてそれ以上の嬉しさも。

ハーマイオニーは、にやけた顔をするのを必死に隠しながらその嬉しさを噛み締めた。
  
その時に、彼がフッと本を難しい顔で睨んだのを見た。


ハーマイオニーの頭に電撃が走った。

――――――もしかしたら彼は、今も何か重大な事件に遭遇しているのかもしれない。
そしてそれに必死に立ち向かっているのかも。
そんな考えが唐突にハーマイオニーの頭を遮ったのだ。

――――――-だとしたら?

そう、だとしたら、そんな時こそ自分が必要なのではないか。
自分ならきっと誰よりも役に立てる。

―――――よし。決めた。
この授業が終わったら一番に彼に声をかけよう。
そして今、何を考えていて何をしているのかを訊くのだ。

ハーマイオニーはいまや不安など吹き飛んでいた。
もし避けられてもトコトン食い下がってやる。
自信満々で下品だが鼻息まで多少荒くなる。

「・・・・・ハーマイオニー、ハーマイオニー。」
「・・・え、なに?ロン」

ハーマイオニーの応えにロンは信じられないような顔をして

「何って、今からとっても難しい呪文をやるんだよ。マグゴナガルが。」

ハーマイオニーは、マグゴナガルのほうに向き直った。
すると彼女は呪文の説明をしているところだった。


「いいですか。みなさん、この呪文は難しいですがとても役に立つ呪文です。
とくに実践を行う闇祓いの者たちにとっては、とても重宝がられます。
しかし闇祓い達にとっても苦労するような魔法です。
だから皆さんに扱えるようにしろとは口が裂けてもいえません。
ただこのような呪文があることを知っておくだけでも、とても重要なことなのです。」
 
マグゴナガルはそこまで言うといつになく眉間にしわを寄せて真剣な表情になった。


その顔をみるだけでどれほど集中しているかがわかる。
――――――おそらく彼女にとってもそれほど緊張する呪文なのであろう。

ハーマイオニーも真剣にその様子を眺めた。
 
マグゴナガルは唐突に杖を振ると呪文をとなえた。
杖から吹きでた青い閃光は一瞬で教卓の上に置かれた分厚い本を襲う。

そして信じられないことが起こった。
本が素早く開かれ黒い煙が吹き出た。そしてその煙はやがて騎士の姿へと姿を変える。

―――――――――まるで映画に出てくるような騎士だ。それも王の風格を伴った。

 
騎士はやがてその姿をすべて形作るとゆっくりとマグゴナガルの方に向き直った。
マグゴナガルの杖と騎士は青白い光でつながっている。
騎士は、命令を待つかのようにジッとマグゴナガルを見ている。
マグゴナガルは、その騎士の様子に少し安心したように見えた。その瞬間である。
 
騎士が突然暴れだした。
マグゴナガルと騎士を繋げている光が薄くなっていく

教室は、パニックとかした。皆が逃げ出そうとする。

すると

「だまれ!」
 

大きな声が教室に響いた。
ハーマイオニーには、その声が威圧的で絶対的のように感じた。
その声に場が静まりかえる。

その声の持ち主は、さらに後を続けた。

「マグゴナガルが集中できない、静かにするんだ。」
 
ハリーであった。
彼は皆を落ち着くようにと多少の睨みをきかしながら席に座るように指示した。

マグゴナガルもそのハリーの様子に頷くと顔を汗で一杯にしながら
騎士をしっかりと見据えると

「戻りなさい。貴方の本来の居場所に。」

やがて騎士は抵抗することを諦めるとまた黒の煙と化し本に溶けていった。

マグゴナガルは顔中に垂らしている汗を拭い

「すみません。少し上位の者を呼び出してしまいました。
昔はあのくらい操れたのですが・・・・・・・皆さんを騒がせました。」

そう言って頭を下げた。
顔を上げたときはすでに汗は引いていた。

「それでは、皆さんも実際にこの本を使って杖を振ってみましょう。」

「「え」」

生徒から驚きの声があがる。
とうぜんだ。
目の前であんなものを見せられれば、

その様子をみたマグゴナガルが口を開いた。

「心配しなくてもよろしいです。呼び出すとしても、ずっと下位の者達です。
それにそんなにすぐに扱えるような呪文ではありません。」

それを訊いて安心したのか生徒はマグゴナガルの本を使って呪文を唱え始める。
しかしいくらやってもウンともスンとも反応しない。

ロンがやっても同じであった。
ネビルに至っては何故か呪文が杖の後ろから発射されて自分が吹っ飛んでいた。
  
「ハーマイオニーやってみろよ。こんなの出来るとしたら君ぐらいだろう。」

ロンがおどけた声で言ってきた。

ハーマイオニーは、頷くと本の前に立った。
その時にハリーの様子がチラリと眼に入った。
 
彼は、腕を組んでコチラをジッと見ていた。
何故かその視線を感じると体に勇気がわいてくるのをしっかりと実感することができた。
 
そしてゆっくり、はっきりと呪文を読み上げた。

青い閃光が杖から吹き上がる。それは一直線に本に向かうと本に衝撃が走る。

本は、開かれるとそこから薄い黒い煙が上がった。
皆の視線が一斉にそこへむかう。

しかしそれだけであった。煙は、やがて消えてしまった。
 
一斉にあちこちからため息が漏れる。

「素晴らしい。じつに素晴らしいことですよ。ミスグレンジャー」

マグゴナガルがハーマイオニーの肩をがっちりと掴んでいう。その顔は驚きに染まっている。
 
一斉に拍手が起こった。
ハーマイオニーは恥ずかしさとウレシさで顔を真っ赤にしながら顔を俯かせた。
完璧にできた訳では無かったが、やはり嬉しかった。
そして視線をチラリと動かして一番見て欲しかった人物を視線に入れた。

喜んで、そして自分を誉めてくれるハリーの顔を見たかった。

「!!」
 
しかしハーマイオニーの視線に飛び込んできた彼は予想外の表情をしていた。

彼は、唇を噛み締めて実に不愉快そうな表情をしていた。
ハーマイオニーはその様子に愕然とした。
どうして彼がそんな態度を取るのかまるで解らなかった。


その後ロンにスゴク誉められたがちっとも嬉しくは無かった。
ハリーがその後に挑戦することが無かった。
そしてマグゴナガルは、何故か不執拗なまでに、この呪文の危険さを説明した。


ハーマイオニーは談話室の暖炉の前でお気に入りのソファーに座っていた。
しかし座り心地は、ひどく悪かった。

――――――――当たり前だ。こんな気持ちのままでは何をやっても楽しい訳はない。

夕食も美味しくなかったし、本もつまらなかった。
それにロンが傍にいるのが何故か嫌であった。


時刻は、すでに一時を過ぎている、そのため談話室には、ハーマイオニー以外誰もいなかった。
ハーマイオニーがボーっとしていると男子寮の方向から誰か歩いて来るのがわかった。

ハーマイオニーは、咄嗟に身を縮めた。今は、だれにも逢いたくなかったからである。

しかし、降りてきた人があまりにも意外であったために思わず声をあげそうになってしまった。

―――――ハリーである。

彼が談話室から外に出るつもりであるのは、スグにわかった。
なにせロープをしっかり着込んで首にはマフラーそして極め付きが忍びの地図であった・・・・・

ハーマイオニーは後をつけることを一瞬で決意し、彼を見失わないようにそっと後を付けた。


彼は、教室に入っていった。五年生のときに見つけた特殊な教室である。

ハーマイオニーは、ドアの前でたじろいだ。
ハリーの昼間の表情が蘇ってきたのである。
しかしここまできて帰るわけにはいかない。
ハーマイオニーは、意を決してドアを開けた。


目の前に飛び込んできたのは、ハリーが杖を手に持って呪文を唱えている姿だ、
そしてハリーの目の前には昼間マグゴナガルが持っていた本である。
 
ハリーの青い閃光が本をおそう。そして本が開かれ黒い煙があがった。

昼間、ハーマイオニーが出した煙よりも多少濃いか同じくらいの煙である。
そしてその煙もやがて何の姿を形作るわけでもなく消えていった。

 
「二週間かけてやっとここまでさ。」

ハーマイオニーが口を開く前にハリーが言った。

「・・・・・どういうこと?」
「僕が頑張ってきた二週間よりも君の一瞬のほうがズット価値のあるってことさ。
才能っていうね。・・・・・・・それとも僕に勇気が無いだけかもしれないけどね。」


「え?」
「この呪文に一番大切なのは、勇気っていうことだよ。
君はそんな事も知らないのに・・・・・・・もういい、
早くここから出て行ってくれ。」

ハリーはそういうとドアを開いてハーマイオニーを促した。

「いやよ。」
「ロンが心配する。」
「なんで・・・・いつも、そうなのよ。ロン、ロンってわたしの顔見ればそればかりじゃないのよ。」

ハリーは怯むような表情をはじめてみせた

「・・・・・・だって、君はロンの彼女だろ。」
「そんなの関係ないわ。」

ハーマイオニーは涙目で叫んだ。
自分のことをロンの恋人だというハリーに酷くイラついた、それにそれ以上の悲しみも
 
「関係なくはないだろう。だって君は実際にロンと――――

ハーマイオニーはハリーに最後まで言わせずに、その声を遮り

「だったら別れるわよ!ハリーとまともに口も訊けなくなるくらいだったら、ロンなんていらないわ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ハリーは、ハーマイオニーの叫びに驚いた。
そしてそれ以上に驚いたのはハーマイオニーだ。
ハーマイオニーは、やっと理解した。


―――――もう、こうなったらこのまま突っ込むしかないわ
 
「ど、どういうことさ?」
ハリーが相当動揺した声で言った。
「ハリー、この呪文に必要なのは、勇気だって言っていたわね!」

ハーマイオニーは強気で言った。
ハリーは反射的に頷く。


「私がその勇気だれから貰っているかわかる?」

ハリーは、首を振った。

――――――ええ、そうよ。わからないでしょう。

「ハリー。あなたよ。」

ハーマイオニーは指をハリーに突きつけた。

「あなたはいつも勇敢だった。どんなピンチでも決して怯まなかったし
皆が怖がる例のあの人にも立ち向かっているわ。
・・・・・・じ、自分の好きな人がそんな人なら私だって少しは強くなれるわ。」


ハーマイオニーは、そこまで言い切ると一気に赤くなった。そして涙が一気に溢れてきた。

「え、だ、だってロンは?」
「ヒ、ヒク・・・・・ロ、ロンには謝るわ。ヒ、だ、だって。
し、仕方ないじゃない。さ、さっき気付いたんで、ですもん。」

ハーマイオニーは泣き声で言った。ロンには済まない気持ちで一杯であった。
しかしそれ以上にハリーが好きであった。


ハリーはロープからハンカチを取りだすとハーマイオニーに渡しながら言った。

「顔、ひどいから、これ使いなよ。」
「そ、そういうことは、ひっ、いわなくて、い、いい。」
 

ハリーは困ったように頭を掻いて

「いやだったんだよ。君の口からロンの名前がでるのが、
だからその別に避けてたわけではないんだ。だから泣かないでよ。――――――――」

ハリーはハーマイオニーをぎこちなく抱きしめると

「―――――――そして一緒に謝ろうよ、ロンに。」

ハーマイオニーはハリーの胸にしがみつくと


「・・・・・・うん。」

と頷いた。



しばらく抱き合っていたがやがて離れ

「明日からは、わたしも付き合うから練習。」
「・・・・・・やっぱり」
「当然よ」
「なんだかスグに置いて行かれそうだよ」
「平気よそのときは私が手取り足取り教えてあげるわ。」

ハーマイオニーは最高の笑顔を見せた。


「じゃあ取り合えずマグゴナガルに本を返してから明日からの事を考えよう。」








fin


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はじめて書いたものなので かなりツタナク読みにくいと思いますが 掲載戴ければさいわいです。






 by Shimotuki