『屋敷しもべ妖精は見た!2』








今日も今日とてドビーは忙しい生活を送っていました。
屋敷しもべ妖精として生きてきた今までで、これほど忙しかった日々はありません。

でも、ドビーは幸せでした。
なぜなら、ドビーは自由だったからです。

一生懸命働けば、お給料がもらえる。休みだってある。
そんな屋敷しもべ妖精が何処にいる?
ドビーがいる!

ダンブルドア先生は以前のご主人様に比べて、心優しい素晴らしい人でした。
あの偉大なハリー・ポッターだっています。

ドビーはホグワーツでの日々がとてもとても気に入っていました。








屋敷しもべ妖精は見た!2












「透明マントを今すぐ貸してくれ。早く貸してくれ。お願いだから貸してくれ」


そう、全ての始まりは、このロナルド・ウィーズリーの発言でした。


「な、何でさ。何に使う気だよ」


凄く焦っています、と言う表情のロンにハリーは聞きました。談話室のソファに座り込んだハリー・ポッターはとてもだるそうでした。


「さっき、チョウが汗かいたからって女子浴場へ……」


ガタッ!!

それまでのだるそうな様子が嘘のように、床を鳴らして、毅然と黒髪の少年は立ち上がりました。


「急ぐんだ!!事件は談話室で起きてるんじゃない!!現場で……」

「君はやめとけよ!!彼女にばれたら……」

「ばれなければ大丈夫。これは男の性なのだよ。そうなのだよ」

「でも全世界の君のファンが……」

「本には載らなければいいんだよ、そんなもん。
ファンなんざ、ちょろいちょろい。
今頃は三年生の頃の話が映画化でもされて、僕の人気はさらにうなぎ登り。
ははは、笑いが止まらないよ!!!
また、金がガンガン入ってくる。くくく。さあ、僕に貢ぐがいい!!愚民共め!!ははは!!
いいから大丈夫だって。上手くやるから。彼女にはばれないよ。
怖じ気づくな!!今こそグリフィンドールの勇気を見せるんだ!!」

「(聞こえない振り)じゃあ、行こうか。友よ」


にやりと邪悪な微笑みを浮かべて、黒髪の少年は赤毛の少年と共に透明マントを抱えて走り出したのでした。

……男の熱い熱い友情でした。











今日も今日とてドビーは、女子浴場の周りを警戒していました。

監督生であるハーマイオニー・グレンジャーが、「姿あらわし」も「姿くらまし」もできないホグワーツで、それでも透明になる事が出来ちゃったりする、ある眼鏡小僧とある校長先生を警戒して、ドビーにそうお願いしたからです。
命令ではなく、あくまでお願いです。

屋敷しもべ妖精にも親切な彼女はマイナーサークル「S・P・E・W(the Society for the Promotion of Elfish Welfareしもべ妖精福祉振興協会)」の終身名誉会長(暫定)なのです。

もちろん彼女自身は監督生専用の浴室を使いますから、自分が見られる事を恐れた訳ではありません。

聡明な彼女は、己の彼氏が、とてもとてもスケベなことをよーく知っていたのです。

奴がいつも覗いているというネタは掴んでいました。

だから、ちゃんと指示をしていたのです。ドビーに。

「見えない声に向かって撃て」と。

訳が判らないけれど、ドビーは黙って頷いたのでした。






「おお、さすがパーバティだ。学年一の美少女だ。いいねえ、へへへ、げへへへ」

「間違えるな、ロン(怒)。学年二、だ。ハーたんを忘れるな!その涎も何とかしろ」


どこからともなく響く声。
なぜかどうしてか、女子浴場の窓がほんの少し開けられていました。


「(ハーたんって、さあ……)あのねえ、君、そんなにハーマイオニーが良いなら、来なきゃいいでしょ」

「チョウは何処だ」

「……(まだ未練があったのか)」

「うん、でもパーバティも良いよね。パーバティ、君の瞳に乾杯。
ダンスパーティの時とかにもっと……。
ああ、失敗した。早まった。
もう少し遊んでから、ハーマイオニーと……。
やるなあ、ロン。そこまで見越して、彼女を作らないんだね」

「(聞こえない振り)ああ、チョウだ!!あそこだハリー!!」

「え!?どれどれ」

「右隅で髪の毛を洗ってるだろ、たぶんアレ」

「……ハーたんの貫禄負けだ。参りました(ごくり)」

「……凄い。最高だよ、へへへ………、くくく……、えへへへ」




「必殺ドビーファイナルアタああああああっク!!!!!!」




「ぷほげええええええ!!!!!」


何処からともなく飛んできたドビーに真空飛び膝蹴りを決められ、ぶっ飛ぶハリー・ポッター。透明マントから出てしまいました。

悪運強いロンは奇跡的に回避しました。
所詮は脇役、もう出番なし、という説もありました。


「悪い子めえ!!!例え、天が許そうとも、このドビーめは許さない!!可憐な少女の浴場を覗くなんて卑劣な変態野郎には、悪即斬なのです!!!月に代わってお仕置きでいらっしゃいます!!!」

「いてて、何するかなあ、いきなり……」

「は、ハリー・ポッターああああああ!??????」


そこにいたのは、もちろん、我らがハリー・ジェームズ・ポッター君(邪悪)。


ドビーは目を疑いました。手でごしごし擦りました。角膜が取れそうになるぐらいごしごし擦りました。

もう一度見ました。

……偉大な偉大なハリー・ポッターでした。







そんな、馬鹿な。

そんなはずはないのです。

そんなはずは……。

……。





だって、これじゃ、まるで……、ハリー・ポッターが覗いていたみたいではないか。

……。




「ドビーは悪い子!悪い子!悪い子!悪い子おおおおお!!!!」




ドビーはいきなり自分で自分の頭を殴りはじめました。
ガツンガツンと殴りはじめました。


「ドビーめは、ああ、ドビーめはハリー・ポッターが覗いていたかもしれないと疑った!!ハリ―・ポッターは気高い!!
勇猛果敢!!
偉大な魔法使いでいらっしゃいます!!
そんなはずない!!そんなはずない!!そんなはずないいいいいい!!!!」


「そうだよ、僕がそんないけない事するはずがないだろう(ニヤリ)」


「もちろんそうでございます!!!ハリー・ポッターが覗きだなんて!!
ハリー・ポッターが覗いていたなんて嘘でいらっしゃいます!!!
嘘でいらっしゃいます!!!
でも!!ハリー・ポッターは覗いてました!!!」


高いキーキー声で叫び喚きながら、ドビーは浴場の壁にガンガン頭突きを始めました。
当然、中にも聞こえます。


「きゃー、ハリーが覗いてるらしいわよ!!!」

「えええ!?ハリーが?あの、ハリー・ポッターが?」

「きゃー!!!!変態いい!!!」


中はパニックです。
さすがに黒髪の少年も焦りました。
自分の好感度が大ピンチです!

せっかく、ロックハートの記録を抜いたのに!!!!!!(当社比)


「いかん!!(焦)」

「ドビーめは信じないいいいいい!!!あああああ!!!」

「うるさい!!黙れ!!見つかるだろ!!」


いや、もう見つかっていますから、ね?


「ステューピファイ!!麻痺せよ!!!!」


杖から魔法が飛び出し、ドビーに直撃。

ドサッ。

情け容赦なく失神の呪文でドビーを黙らせるハリー・ポッター。
伊達に三大魔法学校対抗試合で優勝していません。

やるときゃ、やります。さすが、主人公。


昔、パッドフットことスナッフルことシリウス・ブラックは言いました。
自分より目下の相手をどう扱うかでその人の事が判る、と。

どうやら最低ですね、ハリー・ポッター。
それでいてやっぱり最高です。クールです。


「ロン!!ねえ、ロン何処?早く入れてよ。やばいって」


そして相棒を呼ぶハリー。
でも、赤毛の少年はとっくにとんずらしていました。
もういません。

追いかけようにも見えません。


「くっ、あの野郎……」


もう救えそうにない人は置いていく。
戦場の鉄則です。

それもまた勇気ですね。さすがは、ロン。兄妹みんなグリフィンドール。

ハリー置いてきぼり。




「ハーイ、トム!」


とてもとても聞き覚えのある声がしました。

まるで、油を差し忘れた食い倒れ人形のように、ぎこちなく動いて顔をそちらに向ける黒髪の少年。

そこには、栗色の髪のとても可憐な少女が……、否、夜叉が立っていました。
その少女の名はハーマイオニー・グレンジャー。
砂漠の巡回牧師(嘘)。

彼女もまた今まで、身体を清めていたのでしょうか、髪はしっとりと濡れて、いつもは透き通るように白い身体も火照ったように桃色に染まっていました。


「湯上がりの君も最高だね、ハニー。愛してるよ。そう、僕はトム君です。トム・M・リドルって聞いた事ない?あれ、僕の事(嘘)」

「ピーピング・トム(覗き野郎)とでも改名したら、ハリー?」

「ははは(汗)、か、考えておくよ。……もう、終わったかな、僕の人生(泣)」


ヤケクソのように呟いた少年に夜叉はにっこりと微笑みました。

氷の微笑でした。


「ねえ、こんな所で何しているの?ハリー?」

「星を見ていたのさ。一番美しい星は君だったよ」


さらりと、とんでもない事を言うハリー。
さすがにロックハートの記録を抜いただけの事はあります。


「貫禄負けじゃなかったのかしら?」


知っていた!?知っていた!?知っていた!?

何故、知っている!?
恐るべし。恐るべしミス・グレンジャー。


「……じゃあ、僕、そろそろ帰らなくちゃ。てへっ」


無邪気に笑ってみせる少年。
滝のような冷や汗が爽やかです。

でも、もちろん効果ありません。


「ハリー、待って……」

「インペディメンタ!!妨害せよ!!」


言葉を遮り、いきなり杖を向け、己の最愛の彼女に向かって魔法を唱えるハリー。

……自分が生きる為ならば。愛する人さえ切り捨てる。

鬼畜ですね。鬼畜の発想ですね。


「はははは、さらばだホームズ君!!」


魔法が決まれば、相手の速度は遅くなり、絶対に逃げられるはずです。

勝利を確信したハリー。
三流悪役よろしくな台詞も飛び出します。

何故かとっても似合うところが不思議です。


……しかし。

昔、シリウスは彼女に言いました。君はとても素晴らしい魔女だ、と。
昔、マッド・アイ・ムーディ(偽)は彼女に言いました。お前にはプロの闇祓いになれる素質がある、と。

彼女が、常に己より遙かに優秀であった事を、彼は忘れていました。


「甘いわね」


そうです、この呪文を彼に教えてくれたのは彼女でした。
その時に一緒に覚えようとした呪文が……。
ハリーは覚えられなかったけれど。

楯の呪文。

ダンブルドアも真っ青な、見事な楯の呪文が彼女に展開されています。


ハーたんや、ああ強すぎる、強すぎる(ハリー・ポッター心の一句)。


「ははは、なーんちゃって(汗)。冗談でーす。わっからないかなあ?」

「……泣いて謝れば許してあげようと思ったのに」

「ヴォく、えいーご、わかりませーん(必死)」


必死こいて、クラムの振りをするポッター。
下手くそとかのレベルじゃありません。

本気で何とかなると思っているのか?


「……貴方、最低ね(怒)」


でも、そんな最低男が好きなハーマイオニー。
かつて好きになったロックハートもどうしようもない男でした。

人の好みは十人十色。
人生イロイロ!!会社もイロイロ!!


「ロンがいけないんだ、ロンがね、僕は止めさせようとしたんだけど!!
でも、服従させられていたんです!!服従の呪文で仕方なかったんです!!
ちきしょう、あの野郎!!」


仲間を売るのは常套手段です。
かつて捕まった死喰い人の多くも、そうして罪から逃れようとしました。

さすが、主人公。素直に先人に倣うあたり、さすがの度量です。


「あの赤毛はいいの。どうせ私のが見られた訳じゃないし。でも、貴方は私だけを見ていてほしかったの」


そう、あくまで彼女はハリーが許せなかっただけなのです。
愛なのです。世界の中心なのです。

……監督生なのにそれでいいのか?


「落ち着け!は、話せば判る!!」


許されざる呪文は止めて!!それだけは止めて!!
ハリーの眼が訴えました。


「問答無用!!」


何処かで聞いたような台詞を呟いて、彼女は彼に杖を向けました。

……絶対、許してくれるはずがありませんでした。











「ぎゃああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


遠くから響く誰かの絶叫。
赤毛の少年は切なそうに、空を見上げました。


「ごめんね、でも、僕、まだ死にたくなかったんだよ……。フラーが好きなんだ」


赤毛の少年の呟きは、いつのまにやら瞬いていた星空に、白く残ってすぐ消えました。

男の友情は永遠です。

彼は忘れません。
あの素晴らしい日々を。あの、ハリーと共に過ごした日々を。




……男の子って素敵だね(はぁと)。



チャンチャン。

(おわり)







作者コメント

覗きは犯罪なので、よい子は絶対に真似しちゃいけませんよ(笑)。ハリーもちゃん と、お仕置きされてしまったじゃないですか。ロンは所詮脇役だから生き延びたけど (笑)。
まあ、透明マントなんかあったら、男なら誰でもこういう事してしまうんじゃないか と思ったわけさ。
 by レイン坊