Sign of Lovers
彼でなければ良かったのに・・・
何度もため息混じりに呟いてみる。
そのたびに彼だから好きなのだと、苦笑する。
いつもなら図書室に来れば勉強に没頭するハーマイオニーであったが、
今日はどうもそういう気分にはなれないらしい。
心をかき乱す根元は、自覚がないというのが最大の悩みであった。
知ってか知らずか思わせぶりな態度だったり、あれは天然かも、と
ハーマイオニーは思うようになった。
こちらからアプローチし出して1ヶ月が経とうとしているが
一向に進展する気配がないのに、少し苛立ちを覚える。
遊ばれてる・・・?まさかね・・・
そんなイヤな考えも浮上するが、天然の業だと無理矢理納得してみたり。
所詮男は子供なのよ。
そう思うことで気持ちを落ち着けてみたり。
乙女心は忙しいのである。
でもあれは何なのよ?
そりゃ彼がモテるのは仕方ないとしても、私が見たこともない笑顔ふりまいて
鼻の下伸ばしたりして、みっともない!
ハリーには身に覚えの無い事で、怒り狂うハーマイオニーであった。
この間なんか、下級生の何ていう子だったか忘れたけど
ハリーに告白してるの偶然に聞いてしまったし。
偶然?
ハーマイオニーは苦笑する。
後を付けて行ったのよ、私としたことが。
この間ちらっと漏らした私のボヤキに、耳ざとくラベンダーが聞いていて
「そんなに好きだったんだ、ハリーの事」
面と向かって言われたら、そうかもしれないという想いと共に
鼓動が激しくなり急に体温が上がるのを感じた。
「ち、違うわよ。私は彼の親友だし・・・」
真っ赤になった私をみて、ラベンダーは更に続ける。
「ハーマイオニー、素直になりなさい。でないと他の誰かに持って行かれちゃうわよ」
いつまでも友達のスタンスでいると、本当にそうなっちゃうわよ?
気持ちに気付いたのなら、さっさと関係を変えるべきね。
後悔はしたくないでしょう?
それがラベンダーのアドバイスであった。
だからと言って今更面と向かって、告白なんか出来ないじゃない。
だって、親友なんだもの。
それからの私の態度は、どうもぎくしゃくしていたよう。
思わせぶりな態度を取ってみようと思う物、経験がないだけに
どうしていいか分からないし。
「頭で考えちゃダメ。ココで行動するのよ」
そう言ってラベンダーは私の胸を指さす。
はぁ〜私には無理かも・・・
この間もにっこり微笑んでみたら
「どうしたの?今日は。イヤに機嫌がいいね」
それで片付けられちゃったし。
私のやり方もマズイと思うけど、精一杯なの!
最近ではハリーを見てると無性に腹が立ってくる。
人の気も知らないで、あんなに笑顔ふりまいて・・・
八つ当たりなのは分かってる。
今ハリーに会ったら、きっと山ほど悪態つきそうだ。
だから私はなるべくハリーには会わないように、図書室に逃げたりしてここ何日かは
過ごしている。
そんな努力をしてみても、空しいだけだ。
図書室にいても本なんか読んでない。考えるのはハリーの事ばかり。
ん、もう何よ。こんな所まで邪魔しに来る訳?いい加減に私の心を乱すの止めて!
勝手にハリーを悪者扱いするハーマイオニーであった。
ぼんやりして何時間かすぎたのか、気が付くともう夕暮れが迫ってきていた。
窓の外を見ると夕焼けがとてもキレイ・・・
クィディッチの練習が終わったのか、何人かの女の子に囲まれてる。
ハリーだ!
無性に腹が立つ。
それが焼き餅だと、ハーマイオニーはまったく気付いてないらしい。
ただ、ただ、ムカつくのである。
もういや!今日こそハッキリさせてやる!
v
そう意気込んで図書室を出たものの、ハリーへの距離が近づくにつれ
だんだん意気消沈するのであった。
もう、私の意気地なし!ハッキリさせるんじゃなかったの?
側まで来たが、踏ん切りがつかない。
怖い?
そうかも・・・でもどうして?
拒絶された場合、永遠に彼を失うのだ。
そう思うと足がすくんで前に出ない。
「・・・ハーマイオニー?」
飛び上がる程、ビックリした。ハリーがそこにいた。
私の姿を認めたハリーがいつの間にか私の隣に立っていた。
「あ、考え事してたの・・・」
曖昧にそう答えたけど、怪訝な顔して見つめ返された。
「こんな所で?」
そういわれて周りを見渡すと、中庭にぽつんと立っている自分がいた。
バカ!マヌケ!もっとマシな言い訳なかったの?ハーマイオニー!
こんな所で考え事なんて、どう考えたってヘンよ。
「僕を迎えに来てくれてるのかと思っちゃったよ」
にっこり笑って、思わせぶりにハリーは呟く。
その態度がいけないのよ、私が必要?なんて誤解するじゃない。
「なんで?子供じゃあるまいし」
つい言っちゃうの、素直じゃない私。
素直になれってラベンダーも言ってたけど、今更無理。
「あら〜これからデートじゃないの?さっきの子たちと」
もう止まらない、私の口。
「どうしてそんなこと言うの?ハーマイオニー」
「と〜おっても仲良さそうに見えたけど?」
そこまで言って、自己嫌悪。もう最悪!
いたたまれなくなって、その場を足早に去って行こうとしたけれど
次の瞬間、ハリーに腕を掴まれていた。
とくん・・・
心臓が高鳴る。
私は慌てて思わずハリーの手を払いのけるつもりだったけど、
その手が彼の眼鏡に当たり、落としてしまった。
「あ、ごめんなさい!」
慌てて拾おうとしゃがみ込む。
眼鏡に手を伸ばすと、ハリーの手に触れた。
「あ・・・」
顔を上げると至近距離に碧の瞳があった。
私は慌てて目をそらし、その場から離れたい衝動に駆られる。
「本当にごめんなさい。私・・」
大きくて深い碧の瞳がじっと私を見つめる。こんなに綺麗な顔立ちだったんだ。。。
眼鏡のないハリーを見つめ、改めてそう思うハーマイオニーであった。
「そんな眼で見ないで」
「どうして?」
「落ち着かないわ・・・」
「どうして?」
苦しい・・・ダメ。心臓が早鐘のようだ。
好きだって言えたらどんなに楽か、訴えるような目つきでハリーを見る。
「・・・ハーマイオニー」
ぼうっとした頭にハリーの声が遠くに聞こえる。
気が付くと私の手はしっかりとハリーの手に握られていた。どうして・・・?
「そんな色っぽい目つきで見られると、僕も落ち着かないんだけどなぁ」
ぽつりとハリーが呟く。
え?今なんか言った?小首をかしげ考えるような仕草でハリーを見上げる。
いつの間にかずいぶんと背も伸びてたのね・・・見上げないとあなたの顔が見えない。
奇妙な沈黙が流れる。
「来て・・・」
そういうとハリーは私の手を引いて歩き出した。
私は夢遊病者のごとく引かれるまま、大人しくついてゆく。
そんな私の様子を怪訝そうにチラリと見たけど、何も言わない。
どうして何もいってくれないの?沈黙は嫌いよ。
そんな心の声が聞こえたのか、口火を切ったのはハリー。
どうしてそんなに恐い顔してるの?私何か悪いこと言った?
「ハーマイオニー、僕は何か悪いことしたのかな?」
「え?」
伏し目がちに呟く思ってもみない言葉に躊躇する。
「ハーマイオニーは僕のことキライなの・・・?」
「話をしようにも何処にもいないし、話せば話したで、突っかかってくるし
避けられてるのかな。。。僕」
「そ、そんなことないわ!」
その私の言葉にハリーは顔を上げる。まともにハリーの瞳にぶつかった。
そんなことない・・・その反対。
あなたと話がしたい、ずっと側にいたい、あなただけを見つめていたい・・・
でも私は素直じゃないの。
ほとばしるような思いは、言葉にしないとあなたには届かない。
だけど私には無理・・・
そんな心の葛藤が涙となって零れ落ちる。
「ハーマイオニー?」
「ごめんなさい・・・」
「何が?一体どうしたって・・・」
「鈍感!!」
やっとの事で絞り出したセリフがこれ・・・
今の私の気持を凝縮した言葉。
この場を離れたい
でも凍り付いたように動かない私の足。
急に泣き出したハーマイオニーに対して、どうしていいのか分からないハリーである。
自分が泣かせた・・・?
こんな事になる前に、もっと早くに伝えるべきだった・・・
ハーマイオニーの気持ちにはいくら鈍いハリーでも、薄々は気付いていた。
その時点で、ハーマイオニーも自分と同じ気持だったんだという嬉しさと
何となく恥ずかしい気持が交錯して、告白せずにいた。
親友だった彼女にどう接していいのか、答えが出ぬまま今日に至っている。
自分がハッキリした態度を示さなかったばかりに、彼女を苦しめたのだ。
「ハーマイオニー・・・?」
「どうして泣くの?」
うつむいて黙っている彼女に声をかける。
ハーマイオニーはじっと足元の一点を見つめているようだ。
「僕を見てよ」
両手で彼女の頬を挟み込むようにして、顔を上げさせる。
「や・・・」
急に顔を上げられて視線を逸らそうとするが、ハリーの手がそれを阻む。
落ち着き無く視線を漂わせ、ハリーの眼を見ようとしない。
ハリーは涙で潤んだ瞳をのぞき込み、そっと呟く。
「僕だけを見て欲しいんだ・・・」
彼女の瞳が大きく見開かれ、そこからまた大粒の涙が零れ落ちる。
「好きだよ・・・ハーマイオニー」
一番聞きたかったその言葉が、ハリーの口から零れる。
でもまだ信じられない。
「もう一度言って・・・?」
「大好きだよ、ハーマイオニー」
しばらく呆然としていたハーマイオニーであったが
やがて大輪の花を咲かせたような微笑みがハーマイオニーに広がる。
「やっと笑ったね」
そういうとハリーはそっと涙で濡れた頬にキスを落とした。
突然の事でどうしていいか分からず、茫然自失のハーマイオニーである。
知らずじっとハリーを見据えてしまっていた。
至近距離にハリーの顔がある。
「ハーマイオニー、こういう時は目を閉じてくれなきゃ。やりにくい・・・」
え?何を?と思った瞬間にハリーの唇がそっと触れた。
全身の力が抜け、その場でへたり込みそうになるのをハリーが支える。
「ずるい・・・」
「なにが?ハーマイオニー?」
「だって、私の返事聞いてないでしょ?」
「・・・イヤだったの?」
「バカ・・・今更そんなこと言えないわよ」
「今ならお試し期間中につき、返品は自由ですよ?」
にっこり微笑みながらハリーは言う。
もうっ、確信犯なんだから・・・
「じゃあ、もう少し・・・」
「もう少し?」
「様子を見てから考えるわ」
「?」
そういうとハーマイオニーはハリーの首に腕をからめてこう囁く。
「大好きよ、ハリー」
「様子見るんじゃなかったの?」
「私決断早いの、正式採用決定よ」
ハーマイオニーはクスリと笑う。
一瞬あっけに取られていたハリーだが、つられて微笑む。
「では契約書にサインを・・・」
私の唇にハリーの唇が重なる。
私はハリーの契約書に恋人という名のサインをした・・・。
end
by 紫苑
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