『魔法薬学教師の陰謀に自白させられる少年の話』













明々と松明に照らされた広い石の廊下、楽しげな食べ物の絵が壁に飾られている。

そこに音もなく忍び寄る黒い影こそは、ホグワーツ次期校長・マーリン勲章最有力候補の呼び声高いグレートティーチャー―――

セブルス・スネイプ大先生閣下。
そう、我輩である。

ポルターガイストも眠りこけている早朝のホグワーツ。
馬鹿な生徒共が起き始めるより僅かに早いこの時間に、我輩、厨房に行かねばならなかった。なんとしても行かなければならなかった。


何故か。
それは語ると長くなる。とてもとても長くなる。


だが、特別におしえてやろう。
今、我輩は実に気分がいいからな。



ククク、完成してしまったのだよ、例のブツが。
密かに開発を進めていたアレがな。

判ったかね?え、判らない?
フッ、たわけが。

これだよ、これ。

真実薬・改。
その名も『Tell Me GATSUN!』、略して『TMG』。

名前の通りに、ガツンと言ってしまう薬さ。
己の心の奥底に隠した事をぶちまけてしまうというシロモノだ。
ただの真実薬と違うのは、こちらが聞かなくても自分からべらべらと喋ってしまうという点。

どうだ、凄いだろう。

しかもこの名前は我輩がつけたのだぞ、格好良いだろう。クールだろう。
断じてパクリではないぞ。パクリではないのだ。

ぐふふふ、それにしても、我ながら素晴らしいハイネームセンスだ。
薄々気付いてはいたが、我輩って天才なんだな。



それはともかく、この秘薬をだな、奴の食事に盛れば―――

あの眼鏡野郎は何も問われずとも、己の心に隠した秘密(つまり、今まで犯した悪事とか)をペラペラと語りだし、哀れ退学さよならバイバイ、という寸法な訳だよ。

ククク、これは笑わずにはいられまい。
あの憎きハリー・ポッターを退学に追い込めるのだぞ。
ガハハハ、最高だね。

まあ、安心しろポッター、退学になっても皆で命だけは守ってやるからよ。






巨大な果物皿の絵の前に立ち、梨の絵をくすぐる。

さあーて、あと少しだ。

我輩は心臓が高鳴るのを感じながら、梨が変化したドアの把手を掴み、ドアを開けた。

朝食の準備も大詰めなのだろう、厨房の中は屋敷しもべ妖精達が右に左にと、縦横無尽に駆けずり回っていた。
ギラリと光る包丁を振るい、危うく自分の指まで刻みそうになるものや、モクモクと蒸気があがる鍋の味見をして、あまりの熱さに叫び声をあげるもの―――皆、我がホグワーツの紋章が入ったキッチンタオルを結んでいる。

さあさあ働くがいい、奴隷共!
そして我輩への敬意は大切にな!


「これはこれは、スネイプ先生様!」


妖精の一匹が我輩の姿を見て、声をかけてきた。
途端に、群がってくる妖精共。

やっと我輩に気付いたか、遅いんだよ。
減点してやりたいところだが、こいつらは生徒ではない。


「け、今朝は何の御用でいらっしゃいますか」


妖精の一匹がおずおずと尋ねる。
我輩が恐いかね?ふっ、もっと恐れるがいい。


「グリフィンドールはハリー・ポッターに出される朝食はどこだ?」


我輩はズバリと聞いた。
仕事は早くこなすのがポリシーだ。
ダンディーな男の必須条件さ。


「ハリー・ポッターに何の御用でいらっしゃいますか!」


ハリー・ポッターの名前にいち早く反応した妖精が叫んだ。
しもべ妖精の分際で、ハイセンスすぎる一見奇妙な服装をしている。

だが、我輩の慧眼はその服装に潜む芸術性を見逃さない。

むむ……、格好良いではないか。
イカスな貴様のそのセンス。

さては屋敷しもべ妖精のファッションリーダーだな?そうだろう。
ふっ、見破ったぞ。

我輩の目は節穴ではないのだ。


「貴様に言う必要はない。ハリー・ポッターに出す分はどれだ?」

「ど、ドビーめは、ハリー・ポッター様の担当をしているのでいらっしゃいます!」

「そうか、だったら早く教えるのだ」

「何をするおつもりでございますか?」


我輩相手に一歩も引かないとは、やるではないか、ファッションリーダー君。
いい度胸だ。

奴隷の分際でな。


「薬を足してやるだけだ。体調が良くないと聞いたからな」


後半は嘘だが前半は本当だ。
馬鹿は風邪をひかんからな。奴が体調を崩すわけがない。

でも、とびっきりの秘薬をプレゼントするつもりだよ。


「スネイプ先生はお優しい!
素晴らしい先生でいらっしゃいます!
ハリー・ポッターの為にお薬を!
ドビーめは感激したのでございます!!」

「ふっ、当然の事をするまでだよ。我輩は誤解されやすいが、実は心優しい教師なのだ」


ああ、奴には今までに犯した罪を全部ゲロッてもらわなくてはな。

例えば、我輩の研究室から薬品を盗んだとか、夜中に校内を徘徊しているとか。

窃盗罪に校則違反だ、許せんな。
ああ、許せん。


「こちらでございますスネイプ先生!」

「うむ」


ほほう、旨そうなスープではないか。
これは好都合だ。スープに混ぜてしまおう。

我輩は『TMG』を懐から取り出した。

スープに入れるとなると、三滴どころでは足りないな。


「よく見ておけ、ファッションリーダー君」

「は?」

「うをおぉぉぉっと、手が滑っちまったい!!」


ドバドバッとね。男の豪快料理アルね。

手を滑らせた振りして、『TMG』を全てスープにぶち込む。

ふふふ、これは事故なのだよ。事故ね。
我輩はこんな事するつもりはなかったのよ。

魔法省の指針で制限されているからな、こんないけない事を我輩がするわけないだろう?


「大丈夫でいらっしゃいますかスネイプ先生?」

「ふむ、これは事故なのだよ。そうなのだよ」


こいつ、本当に手を滑らせたと思ってやがる。
馬鹿め、頭が足りない奴だ。
しかも、今ぶちこんだのが何だか判っていないだろう。

だが、その方が好都合だ。


「お薬はそんなに入れても良いのでいらっしゃいますか?」

「入れれば入れるほど良いかもしれない」


良いとは言ってないぞ、良いとはな。


「ドビーめは失礼ながら、スネイプ先生を誤解しておりました!
スネイプ先生がこんなにお優しい方だったなんて!!
いつもいつも、ハリー・ポッターに意地悪ばかりなさる方だと誤解していらっしゃったのでございます」

「うむ、彼には厳しく接することで成長を促していたのだ。人はこれを愛の鞭という」

「おおお!!スネイプ先生は素晴らしい先生でいらっしゃいます!!」


ふっ、照れるぜ。
そんなに褒めるなよ。


「ああ、それなのに!ドビーはスネイプ先生を誤解していた悪い子です!!」

「ああ、悪い子だな」


何言ってんだ、こいつ。意味判らん。悪い子って何?
よく判らないが、我輩は同意しておいた。


「おしおきが必要でいらっしゃいます!!
悪い子にはおしおきが必要でいらっしゃいます!!」


は?おしおき?

なら我輩が協力してやろう。
なにしろ、我輩は心優しい次期校長先生だからな。


「……手伝ってやろう、ファッションリーダー君」

「へ?」

「クルーシオ、苦しめ!」

「うぎゃあああああ!!!!!!」


そんな、泣いて喜ばないでくれ。照れるではないか。
屋敷しもべ妖精はヒトではないからな、この呪いの使用も合法だ。

いつでも、この呪いを唱えてやろう。


「ぷりゅじょぐぎゃああああああ!!!!!!!!」


嬉しさのあまり、泣き喚いているファッションリーダー君を尻目に帰る我輩。
周りの屋敷しもべ妖精達が恐怖の目で我輩を見ている。

恐怖とは崇拝である。

例のあの人―――ボォルデモート卿の言葉を思い出した。


「たまに良いこと言うんだよね、あの人も」


これだけ崇拝されていれば、次期校長の座は確定だな。
ハリー・ポッターも退学だし。


「ぐふふふ」


我輩は堪え切れずに満足の笑みを零したのだった―――――――








『魔法薬学教師の陰謀に自白させられる少年の話』






朝の大広間。
我輩は実に晴れ晴れとした気持ちで教員専用の席についていた。

「おい、スネイプがニタニタ笑ってるぜ」「うわっ、気持ち悪い」グリフィンドールのくそガキ共の謂われ無い中傷にも今日は大丈夫。

我輩はあの眼鏡小僧が来るまで耐えていた。じっと耐えていた。

早く来やがれ、ハリー・ポッター。

そう我輩が念じ続けていると―――



「おはようございます」


来たー!
この声はミス・グレンジャー。

毎朝、教師に挨拶を欠かさない彼女(けっ、優等生ぶりやがって)が来たという事は。

奴もすぐに来るはずで。


「スネイプ先生もおはようございます」

「ああ、おはよう」


お前と挨拶している場合ではないのだ、グレンジャー。

その間にも我輩の目は大広間の入り口に向けられて―――。






来た!
来た!!
来たあ!!!

クシャクシャのあの小汚い黒髪は!


ハリー・ポッターだ!!!





我輩の方には目もくれず、自分の席に座るポッター。

ククク、これがホグワーツ最後の食事になるとも知らずに。



「どうなさったのです、スネイプ先生。何か良いことでも?」


ほくそ笑む我輩を見とがめて、マクゴナガル先生が話し掛けてきた。
だが、もちろん真相を語る訳にはいかない。


「何にもありませんよ、何もね。ただ、このスープが美味しそうだなあと思っただけでして」


ふふふ、マクゴナガル先生。
貴女のご自慢のハリー・ポッターもこれまでです。

これから奴は我々教員と全生徒の前で、己の罪を暴露するのですよ。


「スープがですか?私にはいつもと大差ないように思えるのですが……」

「……(無視)」


ババアの相手をしている場合ではない。

我輩はさりげなくハリー・ポッターの様子をうかがった。
ミス・グレンジャーや赤毛のウィーズリーとくだらんお喋りをしているようだ。

ふふふ、今のうちに仲良しの二人とよくおしゃべりでもしておけ。
心残りのないようにな。



―――そうこうしている間に、ダンブルドア校長先生の合図を皮きりに食事が始まった。

パンにがぶりつくもの、サラダから食べるもの―――皆、思い思いのものからとりかかる。


「確かにこのパンプキンスープは美味しいですけれど、特別に変わった点はないと思うのですが……」

「……(無視)」


まだ言ってるし。
もういいんですよ、貴女との話は。


パンを噛っているポッター。

もうパンはいいから、さっさとスープを飲め!
別に熱くはないんだから!別にてめえは猫舌じゃねえだろ!!

むしゃぶり飲め!!!
ガンガン飲みやがれ!!!




「しかし、言われてみれば、いつもと違うような気も……」

「……(無視)」


うるせえよ、このババア!!
黙って食え!!


ポッターはなかなかスープに手を伸ばさないし、マクゴナガル先生は煩いし……。

いいかげん、キレそうになったその時!!




ポッターがついにスプーンを掴んだ!!

よっしゃあ、行け!
行くんだポッター!!






銀のスプーンですくって―――








飲んだ!!!

飲みやがった!!!







「……よっしゃあ、この野郎(ボソッ)」

「は?スネイプ先生、何かおっしゃいましたか?」

「……(無視)」


さあこい!さあこい!!さあこい!!!

『TMG』は速効性のはずだ!!




お前はすでに死んでいる!!!





……ドキドキするぜえ。





ガタッ!!




音を立ててポッターが立ち上がった。

大広間で突然立ち上がった奴に自然と皆の注目は集まる。
驚いた顔のミス・グレンジャーとウィーズリー。




言うぞ!

言うぞ!!

言うぞ!!!




さあ言ってしまえ!!!

お前の秘密を!

お前の心の奥底にある秘密を!!!



ぶちまけろ!!!




ポッターの虚ろな目に紗がかかり口が開き―――


叫んだ!!!!






「ハーマイオニーが好きだ!!誰にもわたさない!!!!!」

「「「……」」」



!!!!!!!!!!!!!





……………し〜ん……………。







あのう、すいません。

今、なんとおっしゃいましたかね、ポッターさん?






「あわわわ、口が勝手に――――――世界で一番ハーマイオニーが好きだ!!本当に大好きだ!!!ロンにだって渡すもんか!!!ハーマイオニーは僕のものだ!!!!」




……。

…………。

……………………。



お、お前、何をトチ狂ってんだ。

ほ、他に言うことがあるだろう。


ほら、例えば、夜中に校内をうろついてゴメンナサイとか、スネイプ先生の研究室から薬品パクッてゴメンナサイとか。


お前の心の中の秘密は、グレンジャーへの愛なのか?
偽ることが愛なのか?



てゆーか、お前に罪の意識はないのかよ!!!!




お前の心の秘密はそれかよ!!!







「僕は絶対にハーマイオニーと結婚したいんだ!!!」




瞳をウルウルさせたミス・グレンジャーが立ち上がって叫んだ。



「ハリー、私も好き!!!大好き!!!」



ガバッ。

抱き。







……なんか抱き合ってやがる、二人。







馬鹿な……。

そんな馬鹿な……。





何故だ!

何故なんだあ!!


我輩の計画は完璧だったはずだ!!





頭を抱える我輩。

ち、ちくしょう!!

ポッターの野郎、アイツがこんなに神経図太い奴だったとは思わなかったぜ!

校則違反に窃盗罪の常習犯のくせして、罪の意識がないとは!!




心の秘密が、淡い恋心とはふざけすぎだぜ、ハリー・ポッター!!



恐るべし!

恐るべし!!ハリー・ポッター!!!


















「―――セブルス」







ギクギク!!!!!!!!!!!!!!!



突然、自分を呼ぶ声がした。

静かな静かなこの声は。
こ、この声は泣く子も黙る世界一偉大な魔法使いの―――



「―――だ、ダンブルドア先生……」



やばい!

やばい!!

やばい!!!


我輩大ピンチやねん!!

ダンブルドアが怒ってるぜ!!


……い、いかん。

体が竦んでしまって、く、口も上手くまわらん。




「セブルス、聞きにくい事を尋ねるがのう」



恐え!!

恐すぎるよ!!



静かなダンブルドア。とても静かなダンブルドア。

ああ、我輩は知っている。
そういう時が一番恐いのだ、この爺さんは。




「な、なな、なんでしょうか?」


まずい!
まずすぎる!

魔法省の指針に反して我輩がポッターに『TMG』を盛ったことがばれれば―――

たぶんクビ、下手すりゃアズカバン?




のおおおおおおおおお!!!!!

イヤだああああああああああああああああああああ!!!



「―――盛ったのか?セブルス」



な、なんてストライクど真ん中な質問を。

答えはイエスorノーしかないじゃん!!


追いつめられた我輩。

作戦ナンバー5962を実行した。



「ぐ、ぐおおお。我輩、急に腹が痛くなって―――」

「セブルス」

「すいません、ちょっと席を―――」

「セブルス!」



だ、駄目だあ。

ポンポン(=お腹)痛い振りしてもきかねえ。

も、もう駄目だ。
我輩の人生終わった。

もう終わった。


さよなら、僕、もう疲れたよ、パトラッシュ……。


「お主がやったのだな、セブルス」

「あれはちょっとした事故でして……、我輩は一切……」

「お主がやったのだな、セブルス」

「……はい(泣)」


ああ、はいはい、私がやりましたよ。
ええ、私がやりました。

これで文句ないでしょ。
けっ。


我輩が思わず開き直ってしまった、その時!!!!




「よくやってくれましたぞ、セブルス!!!」

「へ?」


瞳を涙で潤ませ、我輩の手を取り握り締めているダンブルドア校長。

隣を見れば、マクゴナガル先生ももらい泣きをしている。



「いやあ、ワシもあの二人は見ていて歯痒いと思っとったのじゃよ。なんとかしてやりたいなあ、と」

「はあ……」

「さすがはスネイプ先生、ハリーの為に密かに盛るとはのう」



な、なんか知らんが……。

我輩、褒められてる?


た、助かったあ……。



よっしゃあ、ラッキー!!!

もうけもうけ!!!



人生最大の危機を乗り越えたぜよ。







ハリー・ポッターの方を眺める。


「ハリー……」

「ハーマイオニー……」


奴ら、まだ抱き合ってやがる。


けっ、バカップルめ。

熱いんだよ。



「そ、そうなんですよ。我輩、彼らの為に頑張ったのですよ」

「ありがとうございます。彼らに代わって寮監の私がお礼を―――」


とかなんとか言って、我輩にキスしようとするのは止めなさい、マクゴナガル先生。


「―――それは結構です」


たくっ、このババアは。どさくさにまぎれて危ないぜ。








「ほれほれ、ああしておるとまるでリリーとジェームズのようじゃ」




マクゴナガル先生は放っておいて、ダンブルドア先生の声にならい、あの二人に目を向ける。



周りのやんやの大歓声の中で、ひしと抱き合い熱烈な接吻を重ねている二人―――ハリー・ポッターとハーマイオニー・グレンジャー。

ダンブルドア先生はそう言うが、我輩は違うと思った。


確かに、ポッターは親父のジェームズによく似ている。
気味悪いほどだ。


だが、その目は……。

その瞳は……。



決して曇ることのない透き通った翠は、やはりあの気丈な美しさを誇った少女の瞳に似て、同じ光、同じ強さを放っている。

純粋で無垢なその瞳には誰もが慕わずにはいられない―――そう、ハリー・ポッターは確かにリリーの息子であり、その化身だった。


故にハーマイオニー・グレンジャーはリリー・エヴァンスではありえなかった。



そう、この二人はリリーとジェームズではないのだ。
違うのだ。

あの二人はもう……。



だが、リリーとジェームズの命は確かにそこに繋がっているのは事実だ。

ハリー・ポッターへと―――

そんなことを考えたその時、初めて、我輩はあの二人を祝福してやりたい気持ちになった。

あのハリー・ポッターを。

普段は問題ばかり引き起こす、憎たらしいハリー・ポッターを。


だから―――







「ふん、良かったな、ハリー……」


ちょっと優しい気持ちで、誰にも聞こえないように小さな声で、我輩はそっと呟いたのだった。













―――その後。

「じゃがのう、やはり真実薬を盛るというのはやりすぎじゃな。という訳で、スネイプ先生は三ヵ月減俸じゃ」

「なんですと!わ、我輩は、二人の為を思って。しかもアレは事故だったのですぞ――」


助かったと思ったのに、突然蒸し返され、反論した我輩。

だが、次のダンブルドア先生の言葉に凍り付いた。


「――セブルス、嘘を吐くでない。君がどんな魂胆でアレを調合していたか、ワシが知らないとでも思っておるのか?しかも、我が校の屋敷しもべ妖精に磔の呪いまで使いおってからに――」



ギクギクギクギク!!

あのファッションリーダーめ、ち、ちくりやがったなあ!!!!



「そ、それは……」

「話によると、手を滑らした振りをして、薬を全部ぶち込んだとか。お主のう、人の気持ちをなんだと思っておるのだ。己の秘密を話すのは、そう容易いことではない場合がほとんどじゃぞ」

「で、では……」

「あのようなめでたい席では罰なんて不粋なコトは言えなかっただけじゃ。君の減俸は確定しておる」

「そんな……。馬鹿な……」



目の前が真っ暗になった。

減俸とは……。
ただでさえ雀の涙ぐらいの給料なのに!!!

薬品代のローンとか、どないせいっちゅうねん!!!




「馬鹿なもバナナもありゃせん!!クビにしないだけ、ありがたく思いなさい(怒)!!」

「……くっ」


ちくしょう、もう夜逃げしかねえ!!
さもなくば、手持ちの薬を売り捌くぐらいしか手は……。


「悪の栄えたためしなし。これにて一件落着!!」


高らかに響くダンブルドア先生の声を聞きながら、我輩、一生懸命、薬の密売の方法を考えたが―――


「ああ、そうそう。ついでに謹慎じゃ、セブルス。ホグワーツから出てはダメじゃ」

「なぬ!?」


我輩の企みはあっさりと噸座した。


金策不可能(てゆーか、魔法薬の密売はたぶん犯罪です)。


もう駄目だ。
もう終わりだ。






……リリー、僕ももうすぐそこへ行くよ。みんなが僕のことを苛めるんだ。僕、もう疲れたよ。




完全に壊れた頭で、我輩は、リリーの笑顔だけを思い浮かべた。


頭の中のリリーはまるで天使のように微笑んでいた。



(おわり)









作者コメント

個人的には書いていて結構楽しかったですね。やっぱり好きだなあ、スネイプ先生。 性格破綻してるけど。今回の拘束は『自白薬』『リリー』『マクゴナガル』『磔の呪 文』でした。自白薬ネタはいつか書きたいと思っていたのですが……。マクゴナガル 先生には幸せになってもらいたいです。ええ、幸せに(笑)。
 by レイン坊